価値提供ではなくユーザーの能力向上からアプローチするUXデザイン

年末ポエムです。

今年はいつものUXデザイン業務だけではなく、UXデザインの教育やワークショップ等の啓発活動、もちろん仕様書の作成やデザインオペレーション作業といった開発に密接したお仕事もあり、多種多様な角度からUXデザインに関わった1年でした。

自主活動では「サービス」について学びなおす機会が多くあり、特に10月から明大の生涯学習?プログラムで近藤隆夫先生の「サービスのデザイン」という授業が、あらためてUXデザインを見つめなおす機会となりました。サービス品質からとらえたUXデザインについて議論するとおもしろそうなので、いつかまとめてみたいと思っています。

価値から考えるUXデザインプロセス


UXデザインは大雑把に言うと、「リサーチ」「体験設計」「プロダクト/サービス開発」の順でサイクルを回し、ユーザー(ユーザー候補)による検証をしながら進める手法です。まずリサーチを通してユーザーにとっての価値を正しく捉え、事前期待値を把握し、ペルソナやカスタマージャーニーマップを代表とする中間成果物でユーザーに提供する体験を設計し可視化します。そして価値を適切に、もしくは期待を超えた価値を提供する仕組みとしてプロダクトやサービスを開発します。プロダクトやサービスを具体的に言うと、アプリ、ウェブサイト、カスタマーサポート、接客などのフォアグラウンド面と、サーバーサイドのシステムやバックグラウンドのオペレーションなどが開発対象となります。UXデザインは事業を進める上での施策を顧客目線で具体化する有効な手段の一つで、さらに顧客満足を高めることに繋がる手法であることから、短期的結果だけではなく長期的成長やブランド形成に役立つ有効な手段です。また、SNSを通した認知向上施策の計画、ランディングページを用いた事前期待値とのマッチングなど、グロースハックやマーケティングと相性のよい手法でもあります。

この中で、UXデザインのコアになる作業「体験設計」は、リサーチで発見された「価値」をユーザーが享受し、ユーザーが「ゴール」を達成するための体験をデザインするための計画、いわゆる「ゴールダイレクテッドデザイン」が基本的なアプローチになっているかと思います。最近でいうとMVPを明確にしてリーンで~というプロセスも価値を明確にするタイプのデザインプロセスです。逆に、価値やゴールが不明瞭なままのUXデザインアプローチは見聞きにしたことがなく、体験したこともありません (知らないだけだったらぜひ知りたい)。


ゴールダイレクテッドデザインと現実の矛盾


「サービスのデザイン」の授業で以下のことを学びました。
  • サービスは対象を変換すること
  • サービスは顧客との共創により生まれる (顧客の労力や能力が必要という意味)
  • 価値はは変換の結果顧客の中で生まれるものであり固定的なものではない
顧客は、サービスを通した対象の変換により価値を享受します。例えばヘアサロン。カリスマ美容師がその巧みの技で顧客を美男美女にしたり、顧客の望むスタイルに仕上げたりします。このとき、髪を整えるというサービスを通して、顧客の容姿が変換されます。これが「サービスは対象を変換する」という意味で、変換された顧客自身の容姿に対して抱く感情や評価が価値となります。

もちろん価値は人それぞれ異なりますし、一人の人でも文脈によって異なります。カリスマ美容師の技術やその施術方法に価値を感じるのではなく(ブランド的な意味で感じる場合もありますが)、顧客はその容姿そのものに価値を感じます。つまり、機能やデザインに価値があるのではなく、受け取った顧客それぞれの中で生まれた体験の結果が価値となります。

ひとつのサービスでも受け取る価値は多様であることに対し、UXデザインの教科書的アプローチでは享受する価値が固定的だったり限定的な何かであると捉えてのリサーチや体験設計が多いかと思います。UXデザインは「ユーザーゴールはタスクの達成ではなく、その先にあるユーザーの気持ちがゴールだよ」という趣旨の解説をよく目にしますし、私自身もこういう趣旨の説明をよくしますが、これはゴールが固定的な何かと捉えた場合の代表的な説明かと思います。もちろんこのアプローチを否定しているわけではなく、価値を明確にすることは効果的アプローチで、明確なユーザーゴールに対して正しい体験を提供しやすいですし、また享受できる価値がわかりやすいので、事前期待に沿った販促活動もしやすいです。結果として売りやすく、満足度の高いサービス/プロダクトを設計するのに役立つかと思います。

一方で、実際サービス/プロダクトを通して享受する価値や達成するゴールは人、状況によりそれぞれですし、ユーザーは提供者側が想定していない使い方をするものです。自撮り女子によるインスタでの「#ブサイクすぎてつらい」などのタグ使いは「想定できない使い方」の良い例かと思います。ツイッターの「Aだと思う人RT、BはLike」みたいなのも想定できないです。想定できないので体験設計から生むことはできません。


価値ではなく能力


さてここからが本題になります。顧客は人、システム、道具といったサービスを通し、労力のかかることや能力的に不可能なことを実行もしくは達成します。言い換えると顧客の能力を高め、顧客が価値を享受できるようにすることがサービスの役割で、サービスやプロダクトの役割は顧客へ能力を提供し何らかの価値が享受できるようにすることと言えます。また、達成できるゴールや享受する価値は、顧客自身の労力、能力、文脈に応じた多様なものです。

ペンは二次元情報を残す能力を人に提供します。その価値は無限にあり言いきれません。少し能力を限定する例だと包丁。利用者の包丁を使う能力に応じて「ぶつ切り」「そぎ切り」「千切り」などを通し様々な料理や味を食べる人に提供しますし、切るだけではなく叩いて肉をやわらかくするといったこともできます。ツイッターは情報を発信する能力を提供しますが、独り言を言う人もいれば、広告を発信する企業もいますし、意識の高さをアピールするベンチャー社長がいると思うと、「#はぁ、わたしってブス」と書きながらかわいい自撮りをアップする女子大生までさまざまです。

ペン、包丁、ツイッターは機能的な例ですが、非機能的な要素もさまざまな価値を生みます。Walkmanはその小ささで場所問わず音楽を聞く能力を提供し、通勤通学で利用するだけでなく、風呂でジップロックに入れて聞いたり、スピーカーを組み合わせてキャンプ場でBGMを流したりと様々な価値を提供しました。Googleはすぐ答えを知る能力を提供し、知りたいことは何でもGoogleで検索するようになりました。もちろんGoogleが直接提供しているのは検索機能だけで、ゴールはウェブサイトを閲覧したその先にあり、これもまた数えきれないゴールがあります。

ゴールダイレクテッドデザインではゴールを限定するアプローチです。もちろんどこをゴールにするか次第ですが、発想としてはペンに対してコンパス、包丁に対して千切りマシーン、がゴールダイレクテッドデザインのアプローチで生みやすいプロダクトです。ゴールダイレクテッドデザインによりサービスやプロダクトはタスクにとって最適なものとなりますが、そのぶん享受する価値も限定的となります。一方で、現実としてゴールはサービサーではなく顧客自身が結果として享受するもので、その価値は一つのサービス/プロダクトでも状況に応じて異なる受け取られ方がされています。ゴールダイレクテッドデザインのアプローチでは価値やゴールの変化に対応しにくいです。

このようにゴールや価値を限定せず、具体的に何ができるようになるのか、顧客がどんな能力を向上できるのかを土台としたデザインアプローチも可能性があるのではないでしょうか。


能力向上を土台としたUXデザイン


徐々にポエム色が強くなっていきます。

デザインアプローチ

能力を土台とするUXデザインに必要なのは「自由度」です。一つの機能/非機能に対し、ゴールに制限がなく、顧客がゴールを決めるための余白やゆらぎ、余裕を持たせることを目指します。タスクをコマンドで即実行しゴールを達成できる機能/非機能より、顧客が自分でゴールを決めたり、調整したり、意思を込められるタイプの機能/非機能に適しているアプローチかと思います。機能やタスクに縛られず、人に自由を与えて、人の可能性を広げるようなマインドセットで取り組むことになりそうです。

単タスク複数ゴール

例に挙げた包丁、ペン、ツイッターは、1つのタスクに対しゴールが限定されません。一方でコンパスや千切りマシーンはゴールが一つとは言いませんが限定的なはずです。機能に対しゴールを限定しすぎないことが能力向上アプローチのUXデザインに重要になるかなと予想しています。また、多機能で複数ゴールに対応するのは100徳ナイフに代表されるよう一般的に言われる悪手ですが、単タスク複数ゴールであれば、やることは一つなのでUIとしてのシンプルさを保つこともできそうです。

スペック

スペックは能力そのものです。例えばレスポンスの速さ、モノの小ささは、人間を束縛しているモノからの解放につながったり能力を飛躍させることにつながります。携帯電話が良い例で、持ち運べること、安定して話ができることによって生活スタイルが変わり、携帯電話があるからこその生活や仕事が生まれました。そもそも電話という機能が生む価値が固定ではなく様々だったのに加え、携帯電話の携帯性によってさらなる価値を提供できる機能となったので、自由度が高いものにさらなる自由度を与えたパターンと言えるかなと思います。

ペルソナのあり方

ペルソナはストーリーをベースに課題やユーザーにとっての価値を記述しますが、このアプローチではペルソナの能力を書くことが大切になりそうです。能力と言ってもドラクエのパラメータというよりはHUNTER×HUNTERの念能力のように特性や制限事項を書くのがいいのかなあと想像しています。はい、もう何言ってるかわからないですね。

ドラえもんのひみつ道具

ドラえもんのストーリーは
      1. のび太が課題を説明
      2. ドラえもんによる道具の提案
      3. ドラえもんが道具の説明
      4. ドラえもんによる実演もしくは試用
      5. のび太の試用
      6. のび太による道具の価値発見
      7. タスクの実行→失敗→オチ
というテンプレで進むことが多いかと思います。能力向上アプローチのUXデザインでは、この中にある「のび太による道具の価値発見」がポイントで、ドラえもんが説明した以外の使い道がのび太にとっての価値になってたりします。これは現実でも実際に起こることで、特にのび太のようなアーリーアダプター的発想の持ち主は道具から価値を見出しますし、それが提供者側の想定したユーザーゴールと一致するとは限りません。ひみつ道具ワークショップでドラえもん式ストーリーを作るワークショップで能力向上アプローチの体験設計ができたりするかも…さすがにそれは安易でしょうが、発想のとっかかりとしては良さそうな気がしています。

関係無いけど、のび太はいつも課題を抱えているのでアーリーアダプター感ある。

刺身包丁や果物ナイフ

刺身包丁や果物ナイフは包丁からゴールを限定することにつながりますが、これはゴールダイレクテッドというより職人がその能力を活かして専門的に使えるようにするものかと思います。妻は普通サイズの包丁とペティナイフを使い分けていますが、それは包丁とペティナイフを使い分ける能力があるからで、その能力の違いがなければペティナイフに価値は生まれないかと思います。ピーラー以上包丁未満、能力向上アプローチはこのぐらいの方向性でデザインするものなのかなあという感覚です。


事業での有用性


あるかなあ…

UXデザインとしては、事前期待と利用結果の乖離がある前提のアプローチなので、顧客が価値発見をする瞬間をデザインするのが課題で、売れるぜ!というアプローチととっても遠いアプローチかなと思います。

価値を明確にしないという点で既に既存のマーケティング手法と相性が悪そうです。価値が不明瞭だとブランド戦略も練りようがないです。即結果(=金)を生む必要があるプロジェクトでは不向きだと言えそうです。その点教科書的なUXデザイン手法は前述のとおりマーケティング手法と相性が良いですし、ユーザー検証を重ねるアプローチなので基本的に失敗の確率が下がります。

その反面、能力向上アプローチのデザインは博打かもしれません。価値検証できればいいのでしょうが、価値を設定しないので検証しようがありません。というか、顧客にゴール想像や価値を委ねるので検証できない気がします。特に儲けや成長と繋がる検証ができるかというと、うーん…どうだろう。名案が思いつきません。

しかしながら、こちらがどんなに体験をデザインしてもユーザーはそれを超えた使い方をするという事実や、サービス/プロダクトが特性として様々な価値を提供している事実は、今後のUXデザインを捉える上でのヒントになる気がしています。UXデザインのアプローチはひとつじゃないよね。


ユーザーに委ねるデザイン


今年の妄想まとめとして、体験すべてをデザインするのではなく、ユーザーが独自でゴールを決め価値を享受できるよう、人の能力を高めることをUXデザイン対象とし、あくまでゴールや価値はユーザーに委ねるというアプローチについて考えをまとめてみました(まとまってませんが)。私のツイッター(@5kaichi)を振り返ってみると、5月ぐらいから1タスクマルチゴールについて妄想していたり、サービスドミナントロジックを学んでからの価値多様性や価値の積み重ねに興味があった様子がうかがえます。来年は仕事に昇華する機会はなさそうですが、これからも趣味としてUXデザインについて考え続けていきたいと思います。

来年も楽しみだー!